半田支部長 永田創一
ビール好きの明治の巨匠゛妻木頼黄 ″が、ちょうど100年前に我々に残してくれた゛旧カブトビール工場 ″地上5階建、延床面積約5500?の煉瓦造のバカでかい建物である。すでに東京の恵比寿ビール工場も、大阪のアサヒビール工場も取り壊され、現存する煉瓦造ビール工場はここだけとなった。戦後は日本食品化工(株)のコーンスターチ原材料倉庫として使用されていたが、1994年の工場閉鎖にともない取り壊されようとしていた。それを聞きつけた日本中の赤煉瓦建築の専門家たちは調査団を組織し、最後の学術調査を実施した。特に金沢学院大学の水野信太郎助教授をはじめ、全国各地の赤煉瓦ネットワークの関係者が半田に集結した。ところが現在半田工業高校の教諭である竹内尊司先生の修士論文で明らかにされているように、大変貴重な建物であることはすでに証明されていた。
半田市は昨年この建物を含めた約1万坪の土地の取得を決め、土地建物の活用を検討する市民レベルでの委員会を組織したのである。
赤煉瓦建物は、文化、芸術、市民活動の拠点として、また半田産業史のシンボルとして保存活用し、「産業とアートの創造空間」としての施設となるよう提案された。もちろんその中には、「時をこえるまちの息吹」を感じるビアホールがなければならない。なぜなら、妻木とビールと赤煉瓦は一体であり、「本物」「一流」であるからだ。また跡地には商業集積、新産業の創出、研究等々の機能をそなえた新しい施設を建設し、新旧の建物とマッチした公園をつくる提案がなされた。いずれにせよ、こうした大きなプロジェクトが提案されたわけで、我々建築にたずさわる者としては、まちづくりの一環として、今後とも関わっていかねばならない。昨年には、この赤煉瓦たてものを愛する市民グループ「半田赤レンガクラブ」が結成され、全国の赤煉瓦ネットワークの仲間から、熱いメッセージが届いている。
我々建築士会のメンバーの情熱がこの100年の歴史を見つめてきた建物に伝わっていくよう努力せねばならないと思う。
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