南吉の養家(平和町) |
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講評
知多半島道路半田中央インターチェンジをでて、車で3〜4分。新美南吉の養家は、南は住宅地、北はのどかな田園風景が広がった、こんもりとした森の中に、近世後期の建築とされる四つ建てで、今では珍しくなった茅葺きの屋根を残し、裏には土蔵が山ももの大きな木を挟んで建っている。昔は親指大のむらさき色の実がたわわになっていたようであるが、現在でも小さな実がなり、季節感を味わうことができる。また、くろがねもちの木、つつじ、竹やぶ等があり、自然の美しさを感じさせてくれる。 昭和48年に地元出身の弁護士神谷氏、洋画家の北川民次氏の努力により改修工事を行い現在に至っており、昭和62年半田市指定有形文化財に指定された。ふるさと景観賞にふさわしい建物である。 (梅田俊比古) |
NARAWA WING(昭和町) |
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講評
NARAWA
WINGは、建物の名前である。また用途的には成岩中学校体育館であり、またNPO法人ソシオ成岩スポーツクラブの拠点でもある。その3つの名前が示すように、多様な顔を持ち地域に根ざした施設として愛され利用度の高いものになっている。屋上にテントを持つ個性的なデザインは、成岩地区のシンボルとして、半田市の新しいランドマーク(風景の目印)になっている。正面景観は、大きなスケールを美しいプロポーションで見事な緊張感を造り出している。中学校の校庭として、質の高い風景を提供し感性教育にも一役買っていると言えるだろう。 (高北幸矢) |
佑花里(青山) |
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講評
佑花里は洋風の庭と白く塗った柱に全面ガラス張りの開放的な建物で、ミースのファンズワース邸を想起させるお洒落なケーキ屋さんです。オープン当初は新入生の制服のようにどこか違和感が少しあったと思われるが、時間の経過と共に落ち着きを持ち、この青山の景観に馴染み溶け込んだ気がする。現地確認に訪れたのは夕方の五時を少し回り、ライトアップされた時間帯で、そこには外の庭を照らす灯りと喫茶ルームから庭へと漏れる灯りとが一体となって夕暮れに溶け込み、昼間の佑花里とは雰囲気を一変させるロマンチックな小世界が表現されていた。 (神野義久) |
旧新美眼科診療所(堀崎町) |
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講評
戦前戦後に少年期を過ごした半田の街を、この審査を通じて改めて見る機会を得て、蔵の屋並みを始め懐かしい残像を発見、と同時に無秩序に増殖する都市の厳しい現実を複雑な思いで見た。そのうえで私はこの建築を推すことにした。この建築について推薦された小栗福子さんの丁寧な推薦理由に誘われ調べてみると、私が大正ロマンとまぶしく眺めていたピンク色の擬西洋様式のこの建築が、大正初期に、設計請負、棟梁までがすべて地元の人の手で作られたとのこと。当時の人々の進取の姿勢が伺われ、半田の誇りとして結実していると思う。このロマンは大切にしたいものである。 (村井 修) |
蔵の味(荒古町) |
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講評
半田を代表する景観というと、まず、黒い醸造蔵が並ぶ半田運河の風景を思い浮かべる。全国的に見て、かなり評価の高い風景で、「日本三大運河」の一つと呼びたい。 さて、「花より団子」の諺があるが、この運河の欠点は、せっかく、良い景観があるのに、近くにレストランや喫茶店がないことで、残念に思っていた。 ところが、近年、格好のレストランができた。店内の雰囲気も味も良い。建築は、古い蔵を改装したもので、白壁を強調し、落ち着いたデザインになっていて、景観向上に貢献している。夜の半田運河の景観は、昼間と違った趣がある。一度そぞろ歩きを楽しんで欲しいものです。 (瀬口哲夫)
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亀崎のせこ(亀崎町)※地元では路地のことを“せこ”と呼んでいます。 |
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講評
まるで懐かしい記憶の中に迷い込んでしまったような思いに捉われる。海辺が山に向かって少しせりあがった地形の起伏に沿って、曲がりくねった網の目のような路地と暮らしが残っている。開け放たれた扉の奥の土間に井戸があるのが垣間見える。狭い道の軒先の、僅かのところに藤が大きく仕立てられている。道の真中にも井戸があり、道端に地蔵が置かれている。八百屋は御簾で陽を遮り商品を並べている。ついこの間までどこにでもあった風景が今もここにはある。人が地に沿いながら棲みこんだ暮らしを、豊かさとして大事にしたいものである。 (岡田憲久) |